39話
日本最小クラスの蒸溜所とは?
バーの常連、ゆきちゃんは長濱蒸留所へ。
滋賀県、長濱市。
日本最大の湖、琵琶湖のすぐ近くに居を構える長濱蒸留所。
2016年に立ち上げられた蒸留所だが、20年前から長濱浪漫ビールを作っていた日本で最小のクラフトディスティラリーになる。
長濱蒸留所を代表するウィスキー、アマハガン(AMAHAGAN)。
中でも、アマハガン・ワールドモルトエディション山桜は、ワールド・ウィスキー・アワード(World Whiskies Awards)2022部門で最高賞を受賞。山桜樽で後熟したブレンデッドウィスキーだ。
ロックミュージシャン、イエローモンキーの吉井和哉氏との共作によるウィスキー、YAZUKA(逆さ読みで和哉と読む)を作るなど、今注目の蒸留所だ。
出迎えてくれたのは、長濱蒸留所のブレンダー、屋久(やひさ)祐輔氏。
熟成庫以外は全て、この小さな蒸留所で作業される。
江戸時代の米蔵を改造したスペースで、ビールとウィスキーを同時に作っているという。
なぜ、2種類のアルコールを作っているのか?
1996年、レストラン併設の地ビール工場として創業。
2016年、ビール作り、麦汁作りのノウハウを生かして、20周年記念事業で蒸留所を設立しウィスキー作りを開始する。
当初はわからないことが多かったので、富山の三郎丸蒸留所の稲垣氏に来ていただき、蒸留所、ウィスキー作りのノウハウを教えてもらい、トライ&エラーを繰り返していった。
長濱蒸留所で作られるウィスキーにはどんな特徴があるのか?
ノンピートを主体に、ピート麦芽も使う。
他の蒸留所との違いは、ビールの仕込み用のモルトをウィスキーに、転用したりして、多種多様なウィスキーを作ることを心がける。
ビールとウィスキーを同時につくるメリットとは?
ウィスキーの樽にビールを入れてバレルエイジのビールを作ってみたり、ビールを払い出した後、ウィスキーを入れて、ビアカスクなど、ビールとウィスキーの融合ができるのがメリット。
レストランではどんな料理が味わえるのか?
近江牛や、琵琶湖でとれたニゴロ鮒を使用した滋賀県の郷土料理鮒寿司も。
長濱バイツェンビール、長濱コーヒーゼリーはニューポット(樽熟成前の原酒)を使用した独創的なメニューがある。
アイリッシュコーヒーのような味わいだという。
ニューメイク由来の荒々しいニュアンスが活かされている。
ウィスキー作り
大麦麦芽を一袋25㎏づつ粉砕機へ 17袋 計425㎏を一度の仕込みに使用している。
大きな蒸留所だと通常、一回に1tなので、その半分以下になる。
使用するのは、イギリスを代表する精麦メーカー・クリスプ(CRISP)社製の大麦麦芽。
こちらは、酵母を成長するのに欠かせない糖分をより多く回収できるという。
しっかり粒が大きくて乾燥しているのがポイント。
粉砕する前の大麦は優しい香りがした、この大麦どんなウィスキーになるのかとても楽しみだ。
次は、粉砕された大麦を糖化する工程だ。
仕込み水には霊峰・伊吹山をはじめ近隣の山々から流れる軟水が使われている。
マッシュタンの上から、かき混ぜ棒を使ってかき混ぜる。
均一に混ぜることで、だまになることを防ぎ、糖分の回収を助けている。
30分間ずっとつづける。
糖化が終わった麦汁は発酵タンクへと送られ、酵母を加え4日間かけて発酵される。
一つのタンクに1900ℓほど。
初めは甘い麦汁だったのが、酵母を加えるだけでアルコール度数が全くなかったものが、90%まではねあがり、もろみに変わっていく。
次の工程は、蒸留へ。
3基とも1000ℓタイプで最小クラスになる。
また蒸留室は8坪と非常に小さい。日本最小クラスといわれるゆえん。
ひょうたん型の銅製ポットスチルは、アランビックといわれ、ポルトガルの老舗メーカー・ホヤ社のもの。
表面に見える小さな叩きつけのでこぼこは、蒸留液が触れる表面積を増やすため。
1号基、2号基はそれぞれ1000ℓづつ初溜されて、3号基の1000ℓのスチルで再蒸留される。
初溜され、できた600ℓを再溜するのだ。
最終的には一樽分200ℓの原酒が生まれる。
一醸一樽。
続いて、樽詰めの工程。
透明な原酒が木の樽につめられることより味がまろやかに熟成されていく。
長濱蒸留所の想いとは…
一定の品質のものを売り続けるということを求めているわけではない。
今はチャレンジをしたい。
そういうことができるというのは、新規参入の強みで、まだ正解がない中で、どんなことができるかなというのを想いながら作っている。
次回は長濱蒸留所の熟成について…
40話
熟成の前にすべきこと
熟成に移る前にすべきことがある
マッシュタンの中にはモルトのカス、ドラフといわれるものがある。
滋賀の農家に持っていき、肥料に使ってもらう。
マッシュタンを次の仕込みに使うため、キレイにしなければいけないのだ。
古い殻は残っていると、麦汁にばらつきがでるので、使用する度にかかさずキレイにしている。
仕込の中で一番時間がかかる作業だ。
このカスを食べてみて甘みが残っているなら、糖をとりきれていないということになるらしい。
粉砕の工程で粗すぎたり、細かすぎたりすると、そのような事象がおこるという。
トンネル熟成庫へ
熟成庫は森の中のトンネルにある。
長濱市が所有する、使わなくなったトンネルを長濱蒸留所がお借りし2018年から熟成庫として使用している。
全長300ⅿのトンネルの中で、およそ1000本の樽が貯蔵されている。
湿度が高いゆえ、樽のタガの部分が錆てしまう。
トンネル熟成には、ウィスキーにどのような味わいを与えるのか?
年間の平均気温が15度ほど。
熟成はゆっくり進むが、非常にフルーティな原酒ができやすいのがトンネル熟成の特徴という。
もう一つの熟成庫とは
第二の熟成庫は2年前に廃校になった七尾小学校。
こちらも地域振興のため長濱市からお借りしているという。
廊下に置いてあるのは、海外原酒を入れていて、いろんな案件で使うのですぐに使用できるように一段積みにしている。
校長室には比較的大きめの樽が置いてある。
500ⅼサイズの樽だ。
教室ごとに様々な樽が貯蔵されている。
保健室においてあるのは、カルヴァドス、リンゴのブランデーが入っていた樽。
甘くて、エステリーで、フルーティな味わいになるという。
図工室においてあるメインはミズナラ樽。
日本独特の香り、お香を思わせるオリエンタルな香りをまとうといわれているのがミズナラ樽だ。
ブレンディングセミナー
理科室で行っているのはブレンディングセミナー。
長濱蒸留所のブレンダー、屋久(やひさ)祐輔氏を講師に、4つの原酒(海外モルト5年熟成原酒、海外モルト8年熟成原酒、長濱シェリー樽原酒、長濱バーボン樽ミディアムピーテッド原酒)を使い、オリジナルのブレンデッドウィスキーをつくることができる。
まずはそれぞれのティスティング。
グラスをゆっくり空気をいれるスワリングを行い、鼻に近づける。
はじめに感じる香りをトップノートとよぶ。
自分の気に入った原酒の構成比率を考えながら4種を掛け合わせることができる。
世界で一つしかない自分オリジナルのウィスキーが生まれるのが。
長濱蒸留所こだわりのボトル
様々なコラボレーションで有名な長濱蒸留所。
最近は漫画の早川パオ先生のまどろみバーメイド、書下ろしボトルがある。
屋久氏ブレンディングの繊細で、可憐で、華やかというのが最大の特徴。
他社とのコラボレーションにはどんなメリットがあるのか?
アニメファンにもウィスキーの面白さ、美味しさを伝えたいという思いがある。
イナズマ、それは富山の三郎丸蒸留所と樽を交換して作った商品。
日本では非常に珍しいタイプのウィスキーだ。
ジャパニーズウィスキーの展望とは?
代表を務める伊藤氏に今後の展望を聞いてみた。
「各地でいろんなスタイルのウイスキーが生産されていて楽しみであります。
日本のみならず海外でも飲まれていくというのが楽しみなので、今後ジャパニーズウィスキーとして広がっていくのかなと思っている。」
あなたにとってウィスキーとは?
「一番近くにいる親友。たまに喧嘩をしてうまくいかないこともあるけど、昔から知ってるいるような親友のような感じ」 ブレンダー 屋久氏
「自分が成長するにつれて、飲むウィスキーが長熟になって深くなるような感じで、ウィ スキーと共に成長できればいいな」 代表 伊藤氏
常に未来に目を向け新しいことにチャレンジし続ける夢の大きな蒸留所。
私はこれからも長濱蒸留所を応援し続けます…