27話 マルス 津貫蒸留所について
28話 スペシャル対談 マルスと嘉之助
27話
バーにて
昨今クラフト蒸留所のジャパニーズウィスキーが話題にのぼることが多くなりお客さんの間でも注文が入るようになっている。
おススメを聞かれるマスターが出したのは、”駒ヶ岳2021年エディション”
明治初期に酒造りを始めた本坊酒造が1985年にマルス信州蒸留所を設立。
マルスの由来は火星のMARS、ネーミング募集で選ばれたのだとか
そして、2016年、鹿児島南さつま市にマルス津貫蒸留所を建設。
チーフデイスティリングマネージャーの草野辰郎氏はまだ若い。
草野氏は味大きく影響すると考えられる糖化と発酵にこだわっている。
自然と時と知恵を活かした挑戦をしている。
仕込み水は山々に囲まれた湧水で信州と変わらない軟水。
シラス台地によるシリカ、鉱物が特徴で甘みとやわらかさをもたらす。
盆地で夏は暑く、冬は厳しい。
信州に比べると温度が高い気候なので熟成にも大きく影響する。
熟成は早く、エネルギッシュかつ深みをもたらす。
信州にもう一つの蒸留所案もあったが、異なる原酒を産みブレンドするため津貫蒸留所が生まれた。
粉砕室にて。
大麦の品種にも、やはりこだわりを語る。
メインはスコットランド産で、チョコレートモルト、ローストモルトなどの大麦麦芽、1000kg。
残りの100kgは別の種類のもの、ウィスキー作りには珍しい南さつま産大麦を混ぜることにより、複雑な味わいを生みだすという。
糖化に関しては、酒質の作り分けにこだわる。
きれいなもの、にごった麦汁もあえて用いるのだ。
3番麦汁タンクの使用も興味深い。
通常お湯で仕込むところ、3番麦汁を用いることで、より多くの成分を含んだもろみが作られる。
高温で麦芽を煮出した時に出る、オイリーな成分というのがウィスキーの香味に影響を与えると考えている。
そして、発酵槽のもろみ作りが最も重要と考える。
安定した乳酸発酵を促し、いい状態のもろみを作れるかがウィスキー作りにおいて重要だという。
理想は木桶で木に着床する乳酸菌の働きも気になるが、高温な気候のため木桶は管理ができないのでステンレス製にしているという。
用いる酵母は二つ。ディスティラリー酵母とエール酵母。
酵母のもろみに入れる前の健康状態が大切だ。
酒母タンクで生育状態をコントロールする必要がある。
蒸留に関して、発酵が終わったもろみの状態でニューポット(熟成前の原酒)の質は8割9割決まってると考える。
基本に忠実に2回の蒸留を失敗しないことが大切。
目指すはディープ、エネルギッシュな原酒
冷却機、細長いシェルアンドチューブが主流だが、一昔前の効率は悪いがヘビーなものができるワームタブ、蛇管式冷却機を用いている。
石倉熟成庫には信州産の原酒も眠っている。
信州産のものを津貫で、津貫産のものを信州で寝かせるものもあるという。
2016年、屋久島エージングセラー(熟成庫)を新設。
津貫と信州の原酒を貯蔵している。
湿った空気、平均気温19度で3か所で最も高い場所。
異なる場所で生まれた原酒を異なる場所で熟成させて、多様な原酒作りを行なっているのだ。
社長の本坊和人氏曰く、今の環境は揃った、と考えている。
これからさらにブラッシュアップして、この体制の一度完結にもっていきたいと語る。
二ヶ所の蒸留所と三ヶ所の熟成箇所で、マルス独自の味わいに進化している。
28話 小正芳嗣×本坊和人×静谷和典によるスペシャルトーク
本坊酒造8代目の本坊和人氏と小正醸造4代目、嘉之助蒸留所の小正芳嗣氏による特別対談。
場所は、本坊2代目常吉の邸宅。「寶常(ほうじょう)」にて。
エスコート役は最年少でマスターオブウィスキーの称号を獲得した静谷和典氏。
- 今回のテーマは?
今、鹿児島から生まれるウィスキーについて。
お互い自社オススメのウィスキーを紹介。
本坊氏は津貫2022エディションを。
バーボンバレル中心でファースト、セカンドと出したが、ここからがスタートという。
香りだちが綺麗、シトラス、バニラのテクスチャーがあり、ほのかにピーティ。
鹿児島ならではの熟成、力強さ、華やかな香味。
ディープを目指すがメローでもある。
続いて、小正氏はシングルモルト嘉之助2021ファーストエディションを提供。
コヅルメロー焼酎樽を焼き直して熟成された珍しいウィスキー。
メローでじっとりとした味わい。焼き直しの樽で色が濃いが、メロー。
共に3年ものと熟成は若いが、しっかりとした味わいを表現できているという。
鹿児島らしさがこれから特徴を出していくことを期待している。
蒸留酒の文化、焼酎がある環境、世界共通のウィスキーにその技術が受け継がれる。
- ウィスキーとの出会いについて
小正芳嗣氏は語る。
スコットランドへ蒸留所の見学に行ったのがきっかけという。
当初は蒸留酒づくりを焼酎に生かそうと思っていたが、まさかウィスキーづくりを営むことになるとは、その時思いもよらなかった。
エドラダワー蒸留所の家庭的で小さなクラフト、マイクロ蒸留所がお手本という。蒸留所で働く人々の生き方など、学ぶべき存在と語る。
本坊和人氏は、
大学時代から低価格のサントリーレッド、ホワイトを水割りで飲んでいた、という。
まさに時代を反映している。
スプリングバンクの規模感が自社に似ていて、手作り感といいバランスがよいスプリングバンクにシンパシーを感じているという。
21年、信州蒸留所と秩父蒸留所の原酒ブレンドウィスキーが発売された。
津貫蒸留所と嘉之助蒸留所の原酒交換もありうるのだろうか?
二人は、「有り得る」と強くうなづく。